岡山県立大学保健福祉学部現代福祉学科 竹本 与志人 研究室

科研費研究成果(血液透析患者の心理的変容過程と家族心理に関する研究)

■科学研究費 基盤研究(C) 2011(平成23)年度~2014(平成26)年度
「血液透析患者の心理的変容過程と家族心理に関する研究」(課題番号:23530736)
研究代表者:竹本与志人
連携研究者:村社 卓・桐野匡史・佐藤ゆかり
研究協力者:杉山 京・木村亜紀子・仲井 達哉

2014(平成26)年度の研究成果

 2014年度は,2013年度の調査研究で得られたデータを中心に解析を行い,調査報告書の作成等を行った。解析は各調査項目に欠損値のないものを用い,分析の結果は次のとおりであった。

透析患者のストレス状況

 約30%の精神的健康が低下しており,精神的健康の関連要因は,合併症数,ADL,透析関連の潜在的ストレッサーのうち,「疲れやすい」,「将来への不安」,「社会での生活の減少」,「家族内の役割の変化」,「睡眠障害」,「通院をすること」の6要因であった。
 また,家族機能認知との関連性の検証の結果,家族機能認知のうち家族の凝集性が良くないと認識している透析患者の精神的健康が低下していた。
 透析患者のストレスに着目した分析の結果,透析に対するストレス認知が高いほど高ぶる感情が高かったが,医師や看護師からのサポートを認識している患者はストレス認知が低いことが明らかとなった。

透析患者の主介護者のストレス状況

 約15%の精神的健康が低下していた。
 療養負担感の関連要因は,「主介護者の年齢」,「就労の有無」,「代替介護者の有無」,「患者の高ぶる感情」,「患者の透析治療における針刺し事故」,「患者の医療費の自己負担額」,「主介護者自身の収入減少」,「透析施設へ送迎を行うこと」,「患者の体調管理を行うこと」,「患者との関係」,「患者のADL」の11要因であった。
 また,家族機能認知と療養負担感に有意な関連が確認された。さらに,療養負担感と療養継続困難感の関連性の検討の結果,両要因の間には有意な関連が確認された。

透析患者と主介護者の関係

 2012年度のインタビュー調査から得られた心理状態を基に,透析患者の心理状態を類型化した結果,5つのクラスが確認された。
 透析歴,ADL,合併症数などを独立変数に,クラスと属性等の関連を検討した結果,透析歴のみに有意な関連が見られたことから心理状態の変容過程(心理的段階)が推測された。クラス毎に主介護者の療養継続困難感と透析患者の精神的健康の関連を検証した結果,有意な関連が確認されたのは,5クラス中3クラスであった。
 属性等の関連を検討した結果,透析歴のみに有意な関連が確認され,心理状態の変容過程は「透析しかないと割り切っている状態」から「4つの心理状態が混在した状態」へ変化し,「透析と共に生きている状態」,「透析に生かされている状態」,そして「透析に納得している状態」へと変化していると考えられた。精神的健康の状態が最も良かったのは「透析に納得している状態」であり,主介護者の療養負担感が最も高かったのは,「透析しかないと割り切っている状態」であった。主介護者の療養継続困難感が透析患者の精神的健康と関連を持っていたのは,「4つの心理状態が混在した状態」ならびに「透析と共に生きている状態」,「透析に生かされている状態」の3クラスであった。
 クラス毎に主介護者の療養継続困難感と透析患者の精神的健康の関連を確認した結果,クラス1~3では両要因に有意な関連が確認されたものの,クラス4は非有意であり,クラス5は有意傾向であった。

 以上の結果より,透析患者と主介護者の心理は関連していることが明らかとなり,双方の心理とその関係性に視点を置いた支援の重要性が示唆された。

2013(平成25)年度の研究成果

 2013年度の調査研究は,2011年度の量的調査と2012年度の質的調査の結果を踏まえて計画立案を行った。本調査研究では,透析医療に従事する保健・医療・福祉専門職の評価・介入の指針を得ることをねらいに,①透析患者ならびに主介護者のストレス状況を明らかにすること,②透析患者の心理的段階を明らかにし,主介護者の療養継続困難感と透析患者の精神的健康の関係を検証することの2点を目的に,アンケート調査を行った。
 調査は,岡山県内の透析施設で通院により血液透析療法を受けている患者のうち,透析施設または岡山県腎臓病協議会より承諾の得られた2,000名とその主介護者2,000名を調査対象とした。2013(平成25)年6月から同年8月に実施し,回答は透析患者1,137名分(回収率56.9%),主介護者1,081名分(回収率54.1%)から得られた。データクリーニングを行った後に記述統計を計算し,賛同・協力いただいた2団体(岡山県腎臓病協議会ならびに岡山県医師会透析医部会)に報告を行った。

2012(平成24)年度の研究成果

 透析患者の心理は,先行研究において透析歴で区分した心理的段階が提唱され,段階毎に特徴がみられると報告されているものの,経験的な提言にとどまっており実証的な検証が行われてこなかった。本年度は,透析患者の心理的適応に向けた心理的段階と変容過程を明らかにすることを目的とし,インタビュー調査を実施した。
 調査対象者は岡山県腎臓病協議会に相談し,現在心理的適応状態にある患者(6名)を紹介いただき,調査の主旨を十分説明したうえで協力を依頼した。
 分析の結果,透析患者の心理は「混乱」,「変化」,「共存」に分類することができると考えられ,「混乱」から「変化」,「変化」から「共存」へと展開するものと推測された。しかしながら,6名全員が肯定的な考えを持ち,透析を受ける医療環境にも比較的恵まれていることから,今後は様々な特性ならびに医療環境に置かれている患者からデータを収集し,さらなる分析を行うことが課題と考えられた。
 また,「変化」と「共存」には肯定的なものと否定的なものが存在することが推測され,この点についてもデータ収集により詳細に確認していくことが求められる。以上のような課題が残っているものの,中途障がい者(身体障がい者)の心理的段階と変容過程(障がい受容過程)に近い知見が得られ,内部(腎機能)障がい者である透析患者にもおおむね共通した心理的段階と変容過程が存在する可能性が示唆されたことは大きな成果であった。

2011(平成23)年度の研究成果

 文献収集ならびに文献的検討を行い,血液透析療法に関する医学情報の収集,血液透析患者や主介護者の現状などを情報収集した。その結果,明らかになったのは次の二点であった。

*人工透析療法は医療技術の進歩により安全性が高くなり,また,医療費・生活費の面でも社会保障制度が整備されるようになってきた。しかし,依然として透析患者の合併症など悩みは尽きず,様々な生活上の問題が生じ,生活の質の低下が指摘されてきている。透析患者の精神面に関連する要因については国内外で研究が進められてきているものの,医学的要因に関する研究が多く,心理社会的要因に関する研究はほとんど行われてきていない。

*家族(主介護者)に関しては,医療者より透析患者の療養管理を担う支援者としての期待が大きく,家族自らも支援の対象であるといった考えに立脚した研究はほとんど行われてきていない。家族の負担は透析患者への支援に影響を及ぼすことから家族にも支援が必要であり,負担に関連するストレス源の探索が重要課題である。

 以上の結果を基に,研究関係者での協議,岡山県腎臓病協議会(患者会)との打ち合わせを行った。そして研究計画を見直し,岡山県腎臓病協議会会員とその主介護者各々500名を対象に予備調査(アンケート調査)を行った。予備調査は,在宅療養を行う透析患者ならびにその家族の潜在的ストレッサーを探索することを目的とした。
 調査の結果,透析患者の約4割の精神的健康が低下しており,精神的健康には透析関連の潜在的ストレッサーのうち,「疲れやすい」,「吐き気・嘔吐」,「身体能力の低下」,「入退院を繰り返していること」,「睡眠障害」,「シャントへ針を刺すこと」の6要因,人間関係に関するストレッサーのうち,「近隣の人との関係」が有意な関連を持っていた。また,主介護者については,3割弱の人の精神的健康が低下していた。療養負担感の「社会的活動の制限の認知」に関連のあった療養支援ストレッサーは,「代替者の有無」,「患者の現在の病状に対する不安」,「患者のうつ状態」,「透析施設へ送迎を行うこと」,「患者の食事の献立を考えること」であり,療養負担感の「否定的感情の認知」に関連のあったのは,「患者の高ぶる感情」であった。

科学研究費による研究業績

学術論文

  • 竹本与志人・杉山 京・仲井 達哉
    「血液透析患者を対象とした心理状態の類型化とその特徴」
    厚生の指標,65(3),厚生統計協会,15-21,2018.
  • 竹本与志人・杉山 京・倉本亜優未・木村亜紀子・仲井達哉
    「血液透析患者を対象とした家族機能と抑うつの関係」
    社会医学研究,33(2),日本社会医学会,61-70,2016.
  • 竹本与志人・杉山 京・桐野匡史・村社 卓
    「血液透析患者の心理的段階とその変容過程」
    岡山県立大学保健福祉学部紀要,22,岡山県立大学保健福祉学部,81-89,2015.
  • 竹本与志人・木村亜紀子・杉山 京・仲井達哉・佐藤ゆかり・桐野匡史
    「血液透析患者の主介護者を対象とした家族機能と療養負担感の関係」
    メンタルヘルスの社会学,21,日本精神保健社会学会,3-12,2015.
  • 竹本与志人・杉山 京・桐野匡史・村社 卓
    「血液透析患者の主介護者を対象とした療養負担感の関連要因の探索」
    メンタルヘルスの社会学,20,日本精神保健社会学会,19-27,2014.

学会発表

  • 竹本与志人・杉山 京・桐野匡史・村社 卓
    「血液透析患者の心理的適応に向けた心理的段階と変容過程」
    日本社会福祉学会第62回秋季大会(東京),2014.
  • 木村亜紀子・杉山 京・仲井達哉・佐藤ゆかり・桐野匡史・竹本与志人
    「血液透析患者の主介護者を対象とした家族機能に対する認知的評価と療養負担感の関連」
    日本社会福祉学会第62回秋季大会(東京),2014.
  • 杉山 京・木村亜紀子・仲井達哉・佐藤ゆかり・桐野匡史・竹本与志人
    「血液透析患者の精神的健康と主介護者の精神的健康の関係-家族システム理論の視点からの検討-」
    日本社会福祉学会第62回秋季大会(東京),2014.
  • 杉山 京,仲井達哉,桐野匡史,佐藤ゆかり,竹本与志人
    「血液透析患者の主介護者における精神的健康と療養負担感との関連」
    第18回日本在宅ケア学会学術集会(東京),2014.
  • 杉山 京・仲井達哉・桐野匡史・村社 卓・竹本与志人
    「血液透析患者の精神的健康と主介護者の療養継続困難感の関連」
    日本社会福祉学会第61回秋季大会(札幌),2013.
  • 竹本与志人・杉山 京・仲井達哉・桐野匡史・村社 卓
    「血液透析患者の精神的健康と主介護者の療養負担感との関連」
    日本社会福祉学会第61回秋季大会(札幌),2013.
  • 竹本 与志人・桐野 匡史・村社 卓
    「血液透析患者の主介護者を対象とした療養負担感と療養支援ストレッサーとの関連」
    第60回日本社会福祉学会秋季大会(兵庫),2012.

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