科研費研究成果(認知症者の経済支援に対する介護支援専門員の能力開発に関する研究)
■科学研究費 挑戦的萌芽研究 2016(平成28)年度~2018(平成30)年度
「認知症者の経済支援に対する介護支援専門員の能力開発に関する研究」(課題番号:16K13437)
研究代表者:竹本与志人 連携研究者:仲井達哉・杉山京 研究協力者:倉本亜優未・谷口将太
2018(平成30)年度の研究成果
最終年度は、前年度実施した量的調査で得られたデータの分析ならびに学会発表、論文投稿を行った。
最終的に量的調査で回収されたデータ数は、認知症高齢者の事例を配付した1,500人対象の調査では507人分(事業所廃止数24、実質配付数1,476通、回収率:34.3%)、若年性認知症者の事例を配付した1,500人対象の調査では478人分であった(事業所廃止数28、実質配付数1,472通、回収率:32.5%)。約半数の介護支援専門員が経済問題ゆえに必要な介護サービスの導入を制限している、あるいは導入できない利用者を担当していた。経済問題の軽減・解決に対応し得る社会保障制度に関しては、知識不足を感じる介護支援専門員が約8割を占めていた。
事例における経済問題の軽減・解決のための社会保障制度の利用の可否に関する回答を分析した結果、認知症高齢者の事例を付した回答者の正答は8制度中平均3.7制度であり、全問正答した介護支援専門員はわずか2人(0.4%)であった。若年性認知症者の事例を付した回答者の正答は8制度平均4.0制度であり、全問正答した介護支援専門員は5人(1.2%)に留まった。本調査により居宅介護支援事業所の介護支援専門員は、経済問題を抱える利用者への経済支援において社会保障制度の選定に難渋している現状が可視化されることとなった。
介護支援専門員の研修に関しては、まずは縦割りの社会保障制度の講義設定が必要であり、社会保障に関する基礎的な理論に加え、各種制度の根拠法や詳細な対象者の基準、相談窓口などを教授することが求められる。そして横断的な制度活用が可能となるよう、事例を用いた演習が必要であり、典型的な経済問題をかかえる事例を複数設定し、アセスメント方法や経済問題の軽減・解決につながる各種制度の活用方法を実践的に学ぶことのできる機会が求められるといえる。
2017(平成29)年度の研究成果
前年度実施した質的調査・予備的な量的調査の結果について、2つの学会で2題ずつ計4題の研究成果発表を連携研究者や院生とともに行った。さらに認知症・生活困窮に関する情報収集のため、学会参加等により情報収集を行った。
今年度は前年度の質的調査等の結果を踏まえてアンケートを作成し、量的調査を実施した。当初は居宅介護支援事業所2,000か所4,000名の介護支援専門員を対象と計画していたが、郵送料の値上げや回答者の負担軽減などの理由により3,000か所3,000名を対象とすることとした。具体的には、高齢の認知症者の事例のアンケートを1,500か所、若年の認知症者の事例のアンケートを1,500か所の居宅介護支援事業所へ送付した。なお、3,000か所の事業所は、近畿・中国(岡山県を除く)、四国、九州・沖縄地方の設置されている居宅介護支援事業所から層化二段階抽出法により選定した。
アンケートの内容は、回答者の属性(性別、年代、経験年数、所持資格、雇用形態、ケアプラン担当数、回答者の所属する事業所の設置状況や運営主体など)のほか、模擬事例に対する設定した社会保障制度の活用の活用の可否、社会保障制度に関する相談先の意向、経済問題を抱える利用者の有無、認知症の知識量などであった。
アンケート実施の結果、前者の回収数は505通(事業所廃止が24か所あったため実質配付数1,476通、回収率34.2%)後者の回収数は478通(事業所廃止が28か所あったため実質配付数1,472通、回収率32.5%)であった。
現在分析を行っているところである。
2016(平成28)年度の研究成果
2016年度は,A県ならびにB府内にある11の居宅介護支援事業所に勤務する介護支援専門員13名を対象に個別またはグループインタビューを実施した。インタビューでは居宅介護支援を担当する認知症者の「経済的な理由から介護サービスの利用を制限する状況」について尋ねた。分析の結果,介護サービスの利用を制限する認知症者の多くが脆弱な経済基盤の下で療養生活を送っていた。脆弱な経済基盤は借金や同居家族の収入状況の変化により発生・強化され,金銭管理が困難な状態や経済的搾取,介護サービス等の利用料の支払いにより脆弱な経済基盤が揺らいだ結果,介護サービスの利用制限に至る過程が推測された。介護支援専門員はこれらの状況に対して経済支援を試みていたが,認知症者やその家族のワーカビリティの低さ,介護支援専門員の社会保障制度に関する知識不足,活用可能な社会保障制度の乏しさ,関係機関の協力度の低さなどが支援の困難度を高めていた。
以上の質的調査をふまえ,調査項目を作成してアンケート調査を実施した。調査対象はA県内の全居宅介護支援事業所656ヶ所の介護支援専門員(各1名)であり,平成29年3月末現在294名分の調査票を回収している(回収率44.8%)。
科学研究費による研究業績
研究図書
- 竹本与志人(単著)
「認知症のある人の経済支援 介護支援専門員への期待」法律文化社,2022.
学術論文
- 竹本与志人
「認知症のある高齢者と家族介護者の負の転帰を回避するための福祉的アプローチ —認知症の診断後からの社会保障制度の活用」
日本認知症ケア学会誌,22(3),524-530,2023. - 竹本与志人・杉山 京・倉本亜優未
「若年性認知症者の経済状況に応じた介護支援専門員の社会保障制度の選定能力」
厚生の指標,68(12) ,9-17,2021. - 竹本与志人・杉山 京・倉本亜優未・仲井 達哉
「介護支援専門員を対象とした認知症者の経済問題に対する支援内容とその展開過程」
社会医学研究,36(1),日本社会医学会,53-60,2019. - 倉本亜優未・谷口将太・杉山 京・仲井達哉・竹本与志人
「居宅介護支援事業所の介護支援専門員を対象とした認知症に関する知識尺度の検討」
岡山県立大学保健福祉学部紀要,25(1),65-73,2019.
学会発表
- 竹本与志人
「認知症のある人への経済支援 気づくことと助けること」
日本認知症ケア学会中国・四国ブロック大会 大会長講演,2023. - 竹本与志人
「認知症のある人への経済支援 —負の転帰を回避するために 診断後から始める計画的な社会保障制度の活用—」
第24回日本認知症ケア学会大会 特別講演(京都),2023. - 竹本与志人・杉山京・倉本亜優未・仲井達哉
「介護支援専門員における若年性認知症者の経済支援に関する研究 -模擬事例に対する社会保障制度の利用に関する理解の状況-」
日本社会福祉学会第66回秋季大会(愛知),2018. - 倉本亜優未・谷口将太・杉山 京・仲井達哉・竹本与志人
「居宅介護支援事業所の介護支援専門員を対象とした認知症に関する知識尺度の検討」
第23回日本在宅ケア学会学術集会(大阪),2018. - 谷口将太・倉本亜優未・杉山 京・仲井達哉・竹本与志人
「介護支援専門員を対象とした社会保障制度の知識の認識に関する研究 -若年性認知症者への支援に有用な社会保障制度に焦点を当てて-」
第23回日本在宅ケア学会学術集会(大阪),2018. - 竹本与志人・杉山 京・倉本亜優未・仲井達哉
「介護支援専門員を対象とした社会保障制度の理解度とその関連要因― 認知症者の経済支援に有用な6つの社会保障制度に焦点を当てて ―」
日本社会福祉学会第65回秋季大会(東京),2017. - 倉本亜優未・竹本与志人・杉山 京・仲井達哉
「経済的な理由により介護サービスの利用を制限する認知症高齢者の実態」
日本社会福祉学会第65回秋季大会(東京),2017. - 倉本亜優未・竹本与志人・杉山 京・仲井達哉
「認知症者が必要な介護サービスの利用を制限する経済的理由 -居宅介護支援事業所の介護支援専門員を対象としたインタビュー調査①-」
第18回日本認知症ケア学会大会(沖縄),2017. - 竹本与志人・倉本亜優未・杉山 京・仲井達哉
「介護支援専門員を対象とした認知症者の経済問題に対する支援内容とその展開過程 -居宅介護支援事業所の介護支援専門員を対象としたインタビュー調査②-」
第18回日本認知症ケア学会大会(沖縄),2017.
受賞
- 日本認知症ケア学会2017年度石﨑賞
*倉本亜優未
「認知症者が必要な介護サービスの利用を制限する経済的理由」
報道
- 「認知症 診断直後から経済支援必要 岡山でケア学会中国・四国大会」山陽新聞digital 2023.12.9
- 「認知症 経済支援探る」山陽新聞2023年1月29日