科研費研究成果(認知症が疑われる高齢者に対する受診・受療援助に関する実践モデルの開発)
■科学研究費 基盤研究(B):2018(平成30)年度~2022(令和4)年度
「認知症が疑われる高齢者に対する受診・受療援助に関する実践モデルの開発」(課題番号:18H00949)
研究代表者:竹本与志人 連携研究者:杉山 京・桐野匡史・神部智司・広瀬美千代・仲井達哉・合田衣里
研究協力者:倉本亜優未
2022(令和4)年度の研究進捗状況
2018(平成30)年度~2021(令和3)年度までに実施した文献的検討や質的調査、量的調査の結果などをまとめた研究図書「認知症が疑われる人に対する鑑別診断前後の受診・受療援助の実践モデルに関する研究」の出版に向けた会議を実施し、その後執筆を行った。そして2023年1月20日に大学教育出版より出版を行った。その内容は次のとおりである。
◆主な目次
序章 本研究の背景と概要
第一部 医療機関での受診・受療に対する認知症のある人と家族の願い
第一章 医療機関での受診・受療における認知症のある人と家族の願いに関する文献的検討
第二章 医療機関での受診・受療における認知症のある人と家族の願いに関する検討
第二部 医療機関の診療体制ならびに連携担当者の実践すべき援助業務に関する実態調査
第一章 地域包括支援センターの専門職からみた医療機関の連携担当者による受診・受療援助の状況
第二章 認知症疾患医療センターの連携担当者を対象とした鑑別診断前後の受診・受療援助の状況
第三章 認知症専門医のいる医療機関の連携担当者を対象とした医療機関の診療体制と受診・受療援助の実践状況
第四章 認知症のある人と家族からみた医療機関における診断後支援の状況
終 章 認知症が疑われる人に対する受診・受療援助の実践モデルの検討
https://www.kyoiku.co.jp/00search/book-item.html?pk=1145
さらに5年間に実施した学会発表ならびに教育講演の内容について各々研究報告書を作成した。
2021(令和3)年度の研究成果
認知症の鑑別診断(以下,診断)に関する診療体制と連携担当者による受診・受療援助の実態を定量的に明らかにすることを目的に,アンケート調査を実施した。調査対象者は,西日本における認知症専門医のいる880か所の医療機関に勤務する連携担当者(精神保健福祉士,社会福祉士,介護支援専門員,看護師等)880名であった。
調査の結果,2か所が宛先不明で返送され,最終的な調査対象機関数は878か所となった。回答は,121か所(回収率:13.8%)から130人分の回答が得られた。なお,130人の内訳は調査票Aが104人,調査票Bが13人,調査票Cが13人であった。
※本研究では受診・受療に関する援助における連携担当者および当該医療機関の診断前後の対応に応じて,診断前後の両方で対応されている方用(調査票A),診断前のみ対応をされている方用(調査票B),診断後のみ対応をされている方用(調査票C)の3種類の調査票を同封し,回答を求めた。
認知症の診療体制について
- ◇認知症の鑑別診断のための受診に事前予約を必要とする医療機関は,調査票Aでは97人(94.2%),調査票Bおよび調査票Cでは10人(90.9%)と,いずれも9割を超えていた。
- ◇事前予約においてかかりつけ医の紹介状を必要とする医療機関は,調査票Aでは71人(73.2%),調査票Bでは8人(80.0%),調査票Cでは7人(77.8%)と,7~8割を占めていた。
- ◇事前予約を行ってから初診を受けるまでの平均日数は,調査票Aでは19.9日(標準偏差:14.8,範囲:3.5-70),調査票Bでは18.6日(標準偏差:7.6,範囲:10-30),調査票Cでは18.6日(標準偏差:14.0,範囲:7-45)であった。
- ◇初診を受けてから鑑別診断の結果が出るまでの平均日数は,調査票Aでは11.9日(標準偏差:10.6,範囲:0-50),調査票Bでは18.0日(標準偏差:13.5,範囲:0-42),調査票Cでは11.7日(標準偏差:10.0,範囲:1-30)であった。調査票Aおよび調査票Cと,調査票Bでは約1週間の差があることが明らかになった。
- ◇認知症と診断された方(認知症が治療目的となる方)を入院させる病床があると回答したのは,調査票Aでは57人(55.3%),調査票Bおよび調査票Cでは6人(54.5%)と,いずれも約半数であった。
- ◇認知症と診断された方の受診・受療を主に担っている診療科に配置されている専門職(医師と看護師の以外)は,いずれも「ソーシャルワーカー(社会福祉士・精神保健福祉士)」が最多であり,調査票Aでは82人(79.6%),調査票Bでは8人(72.7%),調査票Cでは8人(72.7%)と,7~8割を占めていた。なお,「医師と看護師のほかに専門職はいない」という回答は,調査票Aでは10人(9.7%),調査票Cでは1人(9.1%)と1割未満であったのに対し,調査票Bでは2人(18.2%)と約2割であった。
認知症の鑑別診断における援助について
- ◇認知症の鑑別診断のための診察の前の,認知症の疑いのある人(本人)および家族に対する面談(受診前に対面により行う本人や家族からの情報収集)における情報収集の内容について,「いつも行っている」という回答が最多であったのは,「本人の認知症以外の病歴について,家族に確認している」97人(84.3%)であった。一方,「まったく行っていない」という回答が最多であったのは,「本人が独居の場合,冷蔵庫の中の状況を本人に尋ねている」31人(27.0%)であった。
- ◇鑑別診断のための診察の前に,認知症の疑いのある人(本人)のBADL(基本的日常生活動作)やIADL(手段的日常生活動作)に関する情報を本人や家族から収集する際に参考にしている尺度・指標は,「Barthel Index」が最多の40人(37.4%)であり,次いで「DASC-21」が37人(34.6%)であった。
認知症の鑑別診断の前後における医師との連携について
- ◇診断前の対応を行っている医療機関の連携担当者における認知症の鑑別診断の前後の医師との連携について,「いつも行っている」という回答が最多であったのは,「本人または家族から受診前に得た情報は,カルテへ記載している」83人(72.2%)であった。一方,「まったく行っていない」という回答が最多であったのは,「鑑別診断後のかかりつけ医の選定について,医師に相談している」24人(20.9%)であった。
- ◇診断後の対応を行っている医療機関の連携担当者における認知症の鑑別診断の前後の医師との連携について,「いつも行っている」という回答が最多であったのは,「本人または家族から受診前に得た情報は,カルテへ記載している」86人(74.1%)であった。一方,「まったく行っていない」という回答が最多であったのは,「鑑別診断後のかかりつけ医の選定について,医師に相談している」および「鑑別診断後のかかりつけ医の選定について,医師から相談を受けている」20人(17.2%)であった。
- ◇「診断前の対応を行っている医療機関の連携担当者」と「診断後の対応を行っている医療機関の連携担当者」における認知症の鑑別診断の前後の医師との連携は,おおむね同様の回答分布であった。しかしながら,「鑑別診断の結果について,医師から連絡を受けている」は,「いつも行っている」という回答が「診断前の対応を行っている医療機関の連携担当者」では40人(34.8%)であるのに対し,「診断後の対応を行っている医療機関の連携担当者」では58人(50.0%)と,15.2ポイントの差があった。
- ◇「診断前の対応を行っている医療機関の連携担当者」と「診断後の対応を行っている医療機関の連携担当者」における認知症の鑑別診断の前後の医師との連携について,「鑑別診断の結果について,医師に尋ねている」や「治療方針について,医師に尋ねている」などの診断後の対応に関する項目は,「いつも行っている」「だいたい行っている」「あまり行っていない」はおおむね相似した回答分布であったが,「まったく行っていない」については「診断後の対応を行っている医療機関の連携担当者」の方が3~4 ポイント低かった。
- 認知症の鑑別診断後における援助(鑑別診断のフォローアップにおける援助)について
- ◇鑑別診断のフォローアップにおける認知症の疑いのある人(本人)および家族に対する援助について,「いつも行っている」という回答が最多であったのは,「診断後も相談に応じられることを,家族に伝えている」72人(62.1%)であった。一方,「まったく行っていない」という回答が多であったのは,「認知症者に対する事故救済制度(賠償責任保険)の加入について,本人または家族に説明している」70人(60.3%)であった。
続いて,岡山市の居宅介護支援事業所全217か所または地域包括支援センター全16か所を利用する認知症のある人と家族を対象としてアンケート調査を実施した。研究目的は,認知症の鑑別診断時の医療機関での対応に焦点を当て,認知症のある人と家族の視点から受診・受療援助の実態を定量的に明らかにすることである。その結果,宛先不明のため返送された居宅介護支援事業所3か所を除く計230か所のうち,調査協力が得られた20か所(居宅介護支援事業所18か所,地域包括支援センター2か所)の事業所を利用する82世帯(居宅介護支援事業所73世帯,地域包括支援センター9か所)から,42世帯分の回答が得られた(回収率:51.2%)。
質問項目ごとに記述統計等を行った結果の概要は,以下のとおりであった。
認知症のある人を対象とした調査について
- ◇認知症かもしれないと最初に疑った人は「別居の子」が最多の17人(40.5%)であり,認知症かもしれないと疑ってから最初に受診をするまでの期間は平均16.7か月(標準偏差:14.4,範囲:1-54)であった。
- ◇「鑑別診断を受けた医療機関を受診する前に,かかりつけ医などの別の医療機関で,その医療機関を受診するように勧められましたか」という問いに対する回答は,「いいえ」が最多の23人(54.8%)であった。
*鑑別診断直後(診断日)に受けた医師の対応
- ◇医師からの説明の有無に関して,「診断名の説明」や「今後の治療内容の説明」があったという回答は約6~8割であった一方で,「認知症最新医療の状況の説明」は約8割がなかったと回答し,「病状変化があった場合の医療機関への相談方法の説明」や「今後受診する医療機関の説明」についても半数以上がなかったと回答していた。
- ◇「医師からの説明が必要だと思いますか」という問いに対する回答では,6項目すべてにおいて「とてもそう思う」という回答が半数以上を占めており,「とてもそう思う」と「少しそう思う」を合わせた結果では,約9割の回答者が医師からの説明を求めていることが明らかになった。
*鑑別診断直後(診断日)に受けた医療機関の職員の対応
- ◇医療機関の職員(医師を含む)からの説明の有無に関して,「認知症治療薬の副作用の説明」「今後必要な介護サービスの種類の説明」「要介護認定の手続きに関する説明」「今後相談できる窓口の紹介」は約3~5割があったと回答していたが,全体を通して説明がなかったという回答が多くを占めていた。
- ◇特に,「通院にかかる医療費の説明」「医療費軽減に関する制度の説明」「今後進行に伴い利用できるかもしれない,経済面を支援する制度の説明」といった認知症のある人と家族の経済面を支援するための制度等の説明に関しては,9割以上がなかったと回答していた。
- ◇「認知症治療薬の副作用の説明」等の10項目すべてに対して,「医療機関の職員(医師を含む)からの説明が必要だと思いますか」に「とてもそう思う」と回答した人は約4~8割を占めていた。「とてもそう思う」と「少しそう思う」を合わせた結果では,8~9割の回答者が医療機関の職員(医師を含む)からの説明を求めていることが明らかになった。
- ◇認知症と診断された時の気持ちを聴いてくれた職員がいたという回答は21人(50.0%)であり,その職種は人数の多いものから順に,ケアマネジャーが17人(81.0%),医師が10人(47.6%),看護師が4人(9.5%),ソーシャルワーカーが2人(9.5%)であった。
認知症のある人の家族を対象とした調査について
- ◇認知症のある人からみた続柄は子どもが最多の126人(53.6%)であり,生活全体に係る時間を100%としたときの認知症のある人への介護に要する時間の割合は平均43.7%(標準偏差:23.4,範囲:0-100)であった。
- ◇「回答者以外に認知症と診断された人の介護を担う家族はいますか」という問いに対して「はい」と回答した人は21人(50.0%)と半数であり,認知症の鑑別診断の受診に同行したという回答は約9割であった一方,回答者以外の家族は認知症の鑑別診断の受診に同行したという回答は2割に満たなかった。
- ◇WHO-5の日本語版を用いて認知症のある人の家族のメンタルヘルスを測定したところ,27人(64.3%)において精神的健康状態が不調であると考えられた。
- ◇「経済的な理由から,必要な介護サービスの利用を控えたことがありますか」という問いについては「はい」が5人(11.9%)であり,「経済的な理由から,必要な医療サービスの利用を控えたことがありますか」という問いについては「はい」が3人(7.1%)であった。
- ◇「認知症の人の居住地域を担当している民生委員を知っていますか」という問いについては「いいえ」が半数以上となっていた。
- ◇本調査票を渡してくれた事業所(居宅介護支援事業所または地域包括支援センター)に最初に相談してから現在までの期間は平均42.4か月(標準偏差:35.7,範囲:1-240,n=226)であり,認知症と診断されてから現在までの期間は平均52.7か月(標準偏差:45.0,範囲:1-240,n=228)であった。
*鑑別診断直後(診断日)に受けた医師の対応
- ◇認知症のある人の回答と同様に,医師からの説明の有無に関して,「診断名の説明」「今後の病状がどのように変化していくかの説明」「今後の治療内容の説明」があったという回答は約5~9割であった一方で,「認知症最新医療の状況の説明」は約8割がなかったと回答し,「病状変化があった場合の医療機関への相談方法の説明」や「今後受診する医療機関の説明」についても約6~7割がなかったと回答していた。
- ◇「医師からの説明が必要だと思いますか」という問いに対する回答では,6項目すべてにおいて「とてもそう思う」という回答が約8割となっており,「とてもそう思う」と「少しそう思う」を合わせた結果では,約7~8割の回答者が医師からの説明を求めていることが明らかになった。これは認知症のある人の回答よりもそれぞれ約1割高い結果であった。
*鑑別診断直後(診断日)に受けた医療機関の職員の対応
- ◇医療機関の職員(医師を含む)からの説明の有無に関して,「認知症治療薬の副作用の説明」「今後必要な介護サービスの種類の説明」「要介護認定の手続きに関する説明」「今後相談できる窓口の紹介」の5項目は約4~6割があったと回答していたが,全体を通して説明がなかったという回答が多くを占めていた。
- ◇特に,「通院にかかる医療費の説明」「医療費軽減に関する制度の説明」「今後進行に伴い利用できるかもしれない,経済面を支援する制度の説明」といった認知症のある人と家族の経済面を支援するための制度等の説明に関しては,9割以上がなかったと回答していた。
- ◇特に,「通院にかかる医療費の説明」「医療費軽減に関する制度の説明」「今後進行に伴い利用できるかもしれない,経済面を支援する制度の説明」といった認知症のある人と家族の経済面を支援するための制度等の説明に関しては,9割以上がなかったと回答していた。
さらに、岡山県(岡山市を除くすべての居宅介護支援事業所および地域包括支援センター)・兵庫県・大阪府の居宅介護支援事業所および地域包括支援センター(統計抽出法により事業所数の30%を選定:居宅介護支援事業所1,940か所,地域包括支援センター173か所)計2,113か所を利用する認知症のある人と家族を対象としてアンケート調査を実施した。研究目的は,認知症の鑑別診断時の医療機関での対応に焦点を当て,認知症のある人と家族の視点から受診・受療援助の実態を定量的に明らかにすることである。
その結果,宛先不明等のため返送された36か所(居宅介護支援事業所32か所,地域包括支援センター4か所)を除く2,077か所のうち,調査協力が得られた138か所(居宅介護支援事業所129か所,地域包括支援センター9か所)の事業所を利用する540世帯(居宅介護支援事業所510世帯,地域包括支援センター30か所)から,235世帯分の回答が得られた(回収率:43.5%)。
質問項目ごとに記述統計等を行った結果の概要は,以下のとおりであった。
認知症のある人を対象とした調査について
- ◇認知症かもしれないと最初に疑った人は「同居の子」が最多の67人(29.5%)であり,認知症かもしれないと疑ってから最初に受診をするまでの期間は平均17.2か月(標準偏差:19.5,範囲:0-120)であった。
- ◇「鑑別診断を受けた医療機関を受診する前に,かかりつけ医などの別の医療機関で,その医療機関を受診するように勧められましたか」という問いに対する回答は,「いいえ」が最多の142人(60.4%)であった。
*鑑別診断直後(診断日)に受けた医師の対応
- ◇医師からの説明の有無に関して,「診断名の説明」や「今後の病状がどのように変化していくかの説明」があったという回答は約6~8割であった一方で,「認知症最新医療の状況の説明」は約8割がなかったと回答し,「病状変化があった場合の医療機関への相談方法の説明」や「今後受診する医療機関の説明」についても半数以上がなかったと回答していた。
- ◇「医師からの説明が必要だと思いますか」という問いに対する回答では,6項目すべてにおいて「とてもそう思う」という回答が半数以上を占めており,「とてもそう思う」と「少しそう思う」を合わせた結果では,8割以上の回答者が医師からの説明を求めていることが明らかになった。
*鑑別診断直後(診断日)に受けた医療機関の職員の対応
- ◇医療機関の職員(医師を含む)からの説明の有無に関して,「認知症治療薬の副作用の説明」「今後必要な介護サービスの種類の説明」「要介護認定の手続きに関する説明」「今後相談できる窓口の紹介」は約3~5割があったと回答していたが,全体を通して説明がなかったという回答が多くを占めていた。
- ◇特に,「通院にかかる医療費の説明」「医療費軽減に関する制度の説明」「今後進行に伴い利用できるかもしれない,経済面を支援する制度の説明」といった認知症のある人と家族の経済面を支援するための制度等の説明に関しては,8割以上がなかったと回答していた。
- ◇特に,「通院にかかる医療費の説明」「医療費軽減に関する制度の説明」「今後進行に伴い利用できるかもしれない,経済面を支援する制度の説明」といった認知症のある人と家族の経済面を支援するための制度等の説明に関しては,8割以上がなかったと回答していた。
- ◇認知症と診断された時の気持ちを聴いてくれた職員がいたという回答は123人(52.3%)であり,その職種は人数の多いものから順に,ケアマネジャーが104人(84.6%),医師が37人(30.1%),看護師が26人(21.1%),ソーシャルワーカーが23人(18.7%)であった。
認知症のある人の家族を対象とした調査について
- ◇認知症のある人からみた続柄は子どもが最多の126人(53.6%)であり,生活全体に係る時間を100%としたときの認知症のある人への介護に要する時間の割合は平均43.7%(標準偏差:23.4,範囲:0-100)であった。
- ◇「回答者以外に認知症と診断された人の介護を担う家族はいますか」という問いに対して「はい」と回答した人は128人(54.5%)と約半数にとどまり,認知症の鑑別診断の受診に同行したという回答は約9割であった一方,回答者以外の家族は認知症の鑑別診断の受診に同行したという回答は約4割であった。
- ◇WHO-5の日本語版を用いて認知症のある人の家族の精神的健康状態を測定したところ,139人(60.4%)において精神的健康状態が不調であると考えられた。
- ◇WHO-5の日本語版を用いて認知症のある人の家族の精神的健康状態を測定したところ,139人(60.4%)において精神的健康状態が不調であると考えられた。
- ◇本調査票を渡してくれた事業所(居宅介護支援事業所または地域包括支援センター)に最初に相談してから現在までの期間は平均42.4か月(標準偏差:35.7,範囲:1-240,n=226)であり,認知症と診断されてから現在までの期間は平均52.7か月(標準偏差:45.0,範囲:1-240,n=228)であった。
*鑑別診断直後(診断日)に受けた医師の対応
- ◇認知症のある人の回答と同様に,医師からの説明の有無に関して,「診断名の説明」「今後の病状がどのように変化していくかの説明」「今後の治療内容の説明」があったという回答は約6~8割であった一方で,「認知症最新医療の状況の説明」は約7割がなかったと回答し,「病状変化があった場合の医療機関への相談方法の説明」や「今後受診する医療機関の説明」についても半数以上がなかったと回答していた。
- ◇「医師からの説明が必要だと思いますか」という問いに対する回答では,6項目すべてにおいて「とてもそう思う」という回答が約7割以上を占めており,「とてもそう思う」と「少しそう思う」を合わせた結果では,9割以上の回答者が医師からの説明を求めていることが明らかになった。これは認知症のある人の回答よりもそれぞれ約1割高い結果であった。
*鑑別診断直後(診断日)に受けた医療機関の職員の対応
- ◇医療機関の職員(医師を含む)からの説明の有無に関して,「認知症治療薬の副作用の説明」「今後必要な介護サービスの種類の説明」「介護保険制度の説明」「要介護認定の手続きに関する説明」「今後相談できる窓口の紹介」の5項目は約3~5割があったと回答していたが,全体を通して説明がなかったという回答が多くを占めていた。
- ◇特に,「通院にかかる医療費の説明」「介護サービスの利用にかかる費用の説明」「医療費軽減に関する制度の説明」「今後進行に伴い利用できるかもしれない,経済面を支援する制度の説明」といった認知症のある人と家族の経済面を支援するための制度等の説明に関しては,8割以上がなかったと回答していた。
- ◇「認知症治療薬の副作用の説明」等の10項目すべてに対して,「医療機関の職員(医師を含む)からの説明が必要だと思いますか」に「とてもそう思う」と回答した人は約5~7割を占めていた。「とてもそう思う」と「少しそう思う」を合わせた結果では,約9割の回答者が医療機関の職員(医師を含む)からの説明を求めていることが明らかになった。これは認知症のある人の回答よりもそれぞれ1割程度高い結果であった。
2020(令和2)年度の研究成果
地域型認知症疾患医療センターにおける鑑別診断(以下,診断)前の情報収集の内容と診断後のフォローアップ内容,診断前後の医師との連携内容を可視化することを目的にインタビュー調査を実施した。調査は,3府県の地域型認知症疾患医療センター6施設に勤務する連携担当者8名を対象に,半構造化インタビューを実施した。
分析には定性(質)的コーディングを用いた。結果,診断前の情報収集の内容は,【主観的な症状】【客観的な症状】【病歴】【治療状況】【遺伝要因】【生活歴】【嗜好】【家族構成】【社会生活の状況】【社会保障制度活用の状況】の10カテゴリーに分類できた。
また,診断後のフォローアップ内容は,【受診・受療援助】【療養生活の基盤を支える制度の活用】【地域資源の活用と連携・協働】の3カテゴリーに,診断前後の医師との連携内容は,【受診前の連携】【診断結果と今後の医療の確保に関する確認】【受診後の協議】の3カテゴリーに分類できた。
次いで,岡山市と当事者団体との協働で認知症と診断された人やその家族に対する診断直後等の早期の円滑な支援ができる「チームオレンジ」等のあり方を検討する基礎資料を得るため,アンケート調査を実施した。岡山市民が認知症に係る診療を受けていると考えられた県内32 か所の医療機関に対して調査協力を依頼し,承諾を得られた11 か所へ調査票を計340 部送付し,医療機関から認知症の人とその家族へ配付した。返送数は63 部(有効回収率18.5%)であった。コロナ禍であったことも影響し,回収率が低値であったため,一般化に向けた調査は次年度に実施することとなった。
※調査結果の内容は,岡山市のホームページに掲載されている(https://www.city.okayama.jp/kurashi/0000029483.html)。
2019(令和元)年度の研究成果
認知症専門医療機関と連携を行っている地域包括支援センター(以下,包括)の専門職を対象とし,認知症の鑑別診断時における認知症専門医療機関側,特に相談窓口として対応するソーシャルワーカー等の連携担当者の対応やそれに対する期待について明らかにすることを目的にアンケート調査を実施した。
全国の包括5,464ヶ所(2019年7月末時点)から層化二段階抽出法により選定した1,000ヶ所に勤務する4職種(社会福祉士,保健師等,主任介護支援専門員,認知症地域支援推進員)計4,000人を調査対象とした。調査方法は,無記名自記式の質問紙を用いた郵送調査であった。2ヶ所の包括から宛先不明のため返送され,最終的な調査対象者数は3,992人であり,回答は924人から得られた(回収率:23.1%)。
結果,受診待機日数は平均16.2日,包括の管轄地域にある医療機関の設置状況は,認知症疾患医療センターが約4割,認知症専門医のいるクリニック(診療所)が4割弱であった。鑑別診断に向けた受診援助を行ったことがある専門職は8割強であった。認知症専門医療機関からの助言で最も多かったのは,「認知症が疑われる主症状を情報収集するようにとあなたに助言すること」(5割強)であった。受診方法や診療体制に関する説明等は,「診療予約の手続きに関する説明」「主介護者の同行が必要である旨の説明」が7割を超え,「受診の緊急度を鑑みた診療日の調整」が6割強であったが,「主介護者を心理面でサポートできる人の同行が必要である旨の説明」は約4割であった.診断後における支援に関する説明等は,「診断結果の説明」「今後の治療内容に関する説明」が8割弱であったが,「経済支援のために活用した社会保障制度に関する情報」「今後経済支援のために必要な社会保障制度に関する提案」は2割を下回っていた.鑑別診断に必要な情報収集の助言への期待は6割以上,診断後の支援の説明等への期待は8割以上であった。
2018(平成30)年度の研究成果
2018年度の研究目的は、社会福祉の視点からの診断・治療が円滑になるための実践モデルの開発に有用な資料を得るため、当事者や家族介護者を対象に医療機関の診療体制や連携担当者の実践すべき援助業務を探索することであった。2018年度は3つの研究を実施した。
第一に、先行研究を基に文献的検討を行い、認知症者とその家族介護者が医療機関に求めている機能や役割を分析した。その結果、『認知症者とその家族が望む医療機関の物的環境』『認知症者とその家族が望む医療機関の人的環境』『認知症者とその家族が望む連携』『認知症医療の現状と課題』に収斂することができた。
第二に、認知症者の家族介護者を対象にインタビュー調査を実施した。認知症の人と家族の会本部等を訪問して助言等を得るとともに、A府(9名)ならびにB県(6名)において半構造化面接またはフォーカスグループインタビューを実施した。その結果、医療機関の受診前、受診時、受診後のいずれの時期においても診断前の治療に関する不安や診断後の心理社会的問題等に対する福祉専門職の介入はほとんどなく、療養生活の支援のための総合相談機能が医療機関に求められることが確認できた。
第三に、鑑別診断時に焦点を当て、認知症専門医療機関における当事者とその家族への対応内容を確認するため、西日本から3県を選定し、アンケート調査を実施した。居宅介護支援事業所の介護支援専門員の協力により188名分の調査票が配付され、111名分の調査票を回収することができた。結果、受診前の対応では医師以外の職員によって受診前の経緯について聴き取りが行われた事例は約半数であり、受診時および受診後の対応については「病名」や「薬の飲み方」、「薬の副作用」についての説明が行われている一方、「医療費」「医療費の軽減方法」「介護保険」等の療養生活に係る助言等が行われている頻度が少なかったことが確認された。
科学研究費による研究業績
研究図書
- 竹本与志人編
「認知症が疑われる人に対する鑑別診断前後の受診・受療援助の実践モデルに関する研究」大学教育出版,2023.
学術論文
- 竹本与志人
「認知症のある高齢者と家族介護者の負の転帰を回避するための福祉的アプローチ —認知症の診断後からの社会保障制度の活用」
日本認知症ケア学会誌,22(3),524-530,2023. - 倉本亜優未・杉山京・仲井達哉・桐野匡史・神部智司・広瀬美千代・竹本与志人
「医療機関に求められる機能と役割 -認知症者およびその家族のニーズに関する文献的検討-」
岡山県立大学保健福祉学部紀要,26,105-113,2020.
学会発表
- 竹本与志人・杉山 京・多田美佳・神部智司・合田衣里・桐野匡史
認知症専門医のいる医療機関における診断後支援の特徴
第25回日本認知症ケア学会大会 2024. - 竹本与志人
「認知症のある人への経済支援 気づくことと助けること」
日本認知症ケア学会中国・四国ブロック大会 大会長講演,2023. - Y. Takemoto, K. Sugiyama, S. Okada
Exploring Mental Health and Related Factors among Primary Caregivers of Patients with Dementia in Japan, IAGG Asia/Oceania Regional Congress 2023 - 竹本与志人
「認知症のある人への経済支援 —負の転帰を回避するために 診断後から始める計画的な社会保障制度の活用—」
第24回日本認知症ケア学会大会 特別講演(京都),2023. - 竹本与志人
「認知症専門医のいる医療機関における診断後支援の実態」KMSメディカル・アーク2023(オンライン大会),2023. - 竹本与志人・杉山 京
「認知症専門医のいる医療機関の連携担当者を対象とした認知症鑑別診断後のアフターケアの実態 ~経済援助に着目して~ 」第11回日本認知症予防学会学術集会,2022. - 竹本与志人
「認知症の診断を行う医療機関に求められる役割と機能 」第23回日本認知症ケア学会大会 教育講演(オンライン),2022. - 竹本与志人
「認知症が疑われる高齢者の早期受診に向けた保健医療福祉連携モデル」日本認知症ケア学会2021年度関西ブロック大会 教育講演(オンライン),2022. - 竹本与志人・杉山 京・倉本亜優未・桐野匡史・神部智司
「地域型認知症疾患医療センターの連携担当者を対象とした鑑別診断後のフォローアップ過程の可視化」
日本老年学会合同セッション&日本ケアマネジメント学会第20回研究大会(ZOOM),2021. - 杉山 京・倉本亜優未・桐野匡史・神部智司・竹本与志人
「地域包括支援センター専門職からみた認知症専門医療機関による 鑑別診断後のフォローアップ支援に関する期待」
日本老年社会科学会第63回大会(ZOOM),2021. - 倉本亜優未・杉山 京・桐野匡史・神部智司・竹本与志人
「認知症の鑑別診断に向けた地域包括支援センター専門職の受診相談に関する研究」
日本老年社会科学会第63回大会(ZOOM),2021. - 竹本与志人・杉山 京・多田美香
「認知症者の家族における認知症に関する知識の状況」
第22回日本認知症ケア学会大会(ZOOM),2021. - 杉山 京・竹本与志人・多田美香
「WHO-5を用いた認知症者の家族におけるメンタルヘルスの実態」
第22回日本認知症ケア学会大会(ZOOM),2021. - 竹本与志人・杉山京・桐野匡史・倉本亜優未
「認知症疾患医療センターでの専門医療相談に求められる診療体制ー家族を対象とした質的調査ー」
日本老年社会科学会第62回大会報告要旨号 2020.Vol.42-2(誌上発表),2020. - 倉本亜優未・杉山京・桐野匡史・神部智司・竹本与志人
「地域包括支援センター専門職からみた認知症専門医療機関の受診援助の特徴ークラスター分析を用いた類型化ー」
日本老年社会科学会第62回大会報告要旨号 2020.Vol.42-2(誌上発表),2020. - 倉本亜優未・杉山京・神部智司・広瀬美千代・竹本与志人
「認知症専門医療機関における認知症が疑われる高齢者とその家族への対応 ― 認知症の鑑別診断時に焦点を当てた家族介護者へのアンケート調査 ―」
日本社会福祉学会第67回秋季大会(大分),2019. - 広瀬美千代・杉山京・竹本与志人
「認知症が疑われる高齢者に対する受診援助過程におけるサポート資源― 介護者家族の会会員へのインタビュー調査より ―」
日本社会福祉学会第67回秋季大会(大分),2019. - 広瀬美千代・杉山京・竹本与志人
「認知症が疑われる高齢者に対する医療機関の受診・受療体制のあり方 -家族会会員へのグループインタビューを通して-」
第61回日本老年社会科学会大会(宮城),2019. - 倉本亜優未・杉山京・仲井達哉・桐野匡史・神部智司・広瀬美千代・竹本与志人
「医療機関に求められる機能と役割 -認知症者とその家族の願いに関する文献的検討-」
第20回日本認知症ケア学会大会(京都),2019.
講演
- 竹本与志人
「認知症が疑われる人のための診断後支援 -当事者に視点を置いた多職種・多機関連携-」
共生社会に向けた地域づくりセミナー,エーザイ ジャパン,2024.
受賞
- 日本認知症ケア学会2021年度石﨑賞
*杉山 京
「WHO-5を用いた認知症者の家族におけるメンタルヘルスの実態」 - 日本老年合同学会合同セッション賞・日本ケアマネジメント学会第20回研究大会発表優秀賞(2021)
*竹本与志人
「地域型認知症疾患医療センターの連携担当者を対象とした鑑別診断後のフォローアップ過程の可視化」
報道
- 「認知症 診断直後から経済支援必要 岡山でケア学会中国・四国大会」山陽新聞digital 2023.12.9
- 「認知症 診断まで1カ月 患者,家族 不安抱え待つ」山陽新聞2022年3月8日
- 「認知症介護 精神不調63% 大きな負担 自宅で孤立 悩み共有,交流の場重要」山陽新聞2022年4月11日
- 「認知症診断時 説明足りず 経済支援制度や通院医療「なかった」8割超」2022年5月11日