岡山県立大学保健福祉学部現代福祉学科 竹本 与志人 研究室

科研費研究成果(スーパービジョンを活用した高ストレス環境下における人材育成・管理モデルの検討)

科学研究費 挑戦的研究(萌芽):2022(令和4)度~2024(令和6)年度

「スーパービジョンを活用した高ストレス環境下における人材育成・管理モデルの検討」(課題番号:22K18558)
研究代表者:竹本与志人  研究協力者:杉山 京・木村亜紀子・岡田 進一

 本研究の目的は,21世紀型の情報化社会に即した職場の人材育成・管理モデルの開発を目指し,その手掛かりとなる知見を得るため,医療ソーシャルワーカーを対象にスーパービジョンにおけるパラレルプロセスを可視化することである。現代の複雑化した情報化社会において労働者はメンタルヘルスが常に多方面からの圧力・監視にさらされる環境下に置かれている。高ストレス社会においてはかつてのフォーディズムによる生産手法・経営思想では職場定着は不可能であり,また近年普及しつつあるOJTでも不十分である。本研究では高ストレス下での人材育成・管理に有効なスーパービジョンに着目し,スーパービジョンの質を低下させるパラレルプロセスの実証により効果的なスーパービジョンの在り方を提示する。研究対象は高ストレス下で従事する職種である医療ソーシャルワーカーであり,定性的・定量的研究によりパラレルプロセスを可視化する。

2023(令和5)年度の研究進捗状況

 2023年度は,まず前年度にインタビュー調査で収集したデータの分析を行った。分析の結果,医療ソーシャルワーカーが受けている(受けてきた)スーパービジョンは,Kadushinら(2014)の知見を支持しており,教育・支持・管理的スーパービジョンが相互に関係しながらスーパーバイジーに提供されていることが確認できた。また,スーパービジョンのパラレルプロセスの分析では,前述の3つのスーパービジョンがパラレルするものの,各々のパラレルプロセスの発生に起因する要因には特徴がみられることが明らかとなった。
 以上のインタビュー調査の成果を手掛かりに,国内の医療機関2,528か所ならびに特定機能病院79か所,計2,607か所の医療機関に勤務する医療ソーシャルワーカー5,214人を対象としたアンケート調査を実施した。調査では,各医療機関2人の医療ソーシャルワーカー(上司(先輩)と部下(後輩),各1人)に協力を依頼した(無記名自記式の質問紙調査)。配付した医療機関2,607か所のうち,4機関が廃院となっており,勤務上の理由により上司(先輩)のソーシャルワーカー3人,部下(後輩)のソーシャルワーカー2人が回答困難であった。回答は,上司(先輩)のソーシャルワーカー2,599人のうち525人(回収率:20.2%),部下(後輩)のソーシャルワーカー2,600人のうち486人(18.7%)から得られた。

2022(令和4)年度の研究進捗状況

 2022年度は、ソーシャルワークの研究者2名に協力依頼を行い、研究目的に合致した組み入れ基準(①原著論文であること、②量的研究であること、③スーパーバイジーあるいはスーパーバイザーが対象者であること)を定め、スーパービジョンとパラレルプロセスに関する国内外の文献をPubMed等の検索エンジンを用いて収集し、その内容を精査した。その結果、1次スクリーニングにおいて1,000編を超える文献から約30編を抽出することができた。
 また、医療機関のソーシャルワーク部門において指導的立場にあり、かつ指導する部下のいる医療ソーシャルワーカー14名に協力を求め、個別インタビュー調査を実施した。本研究の目的は、21世紀型の情報化社会に即した職場の人材育成・管理モデルの開発を目指し、その手掛かりとなる知見について、医療ソーシャルワーカーを対象としたスーパービジョンにおけるパラレルプロセスの検討を通して得ることである。そのため、このインタビュー調査では、パラレルプロセス化するスーパービジョンの機能の特定と程度を探索することを目指した。
 インタビュー調査では、①上司から受けている(受けた)スーパービジョンの内容ならびに②部下(または後輩)に行っている(行った)スーパービジョンの内容について尋ねた。現段階では、スーパーバイジーはスーパーバイザーにより適切な教育がなされ、心が支えられ、部署外からの要請に対する調整行為等が行われることにより仕事継続意向が高まっていること、そしてスーパーバイザーがスーパーバイジーにとっての「ソーシャルワーカーのモデル」である場合にパラレルプロセスが生じることが明らかとなっている。

 
 

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